小説「海炭市叙景」

2009年09月03日

文字を微妙に

文字を微妙に変えてある場合がよくあります。
海炭市の町名でも「東金町」は函館の「東川町」を連想させ、「駒形の倉庫」は「駒場車庫」を連想させます。

曲名でもガンズンローゼスの「レックス・ライフ」は、本物のガンズの「レックレス・ライフ」を彷彿とさせます。
これは「reckless」だと"むこうみずな人生"という意味が、小説では「reck?注意深い?」となり、探し物をしながら車を走らせるカップルになぞらえているのかも。

色んな仕掛けを、ひとつひとつ謎解いてみるのも楽しいものです。
正解かどうか、答えは求めないにしても。


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2009年08月23日

夏の終わりは来週に

湯の川の花火大会は、本日も強風と高波となり来週土曜日に延期となりました。
今夜はこのあと少しだけ雨になって、涼しくなるのでしょうか。

"夏は冬に憧れて、冬は夏に帰りたい"
とは言え、もうちょっとだけ夏です。

"時がとまればいい"と思ったり。
"海沿いのカーブを曲がれば夏が終わる"と気がついたり。
色々な季節の変わり目への想いはあるもの。

小説「海炭市叙景」のラストを飾る一編「しずかな若者」の主人公は、来年の夏はここにいないと知りながら、今だけのそこでの夏をしずかに味わっています。
失ったものが何であるのか、ぼんやりと考えながら。

あの想いは、佐藤泰志本人の想いだったのだろうか。



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2009年08月16日

待ちすぎた僕はとても疲れてしまった

なんて歌がありました。

「海炭市叙景」の登場人物は、待っていることが多いのです。
尋常じゃない時間をずっと待っていたり、愛する家族のために真冬の寒さの中で待っていたり、帰ってこない事が度々あるようになった大事な人を待っていたり。

必ず来ると思っているのに、それを考え直すほどの時間が経ったりして。

何かあったのかなと、いろんな事が頭をよぎってしまうものです。

しかし日常的には、何の理由もない事も多く。
その場合、待たせた側は心配させたことなんか全く気づいてない場合も多いものです。
ま、無事ならそれでいいのですが。



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2009年08月09日

はじまりの文章

「トンネルを抜けると・・・」ではないですが、はじめの一文が物語の世界の最後まで、集中したまま連れて行くきっかけとなる事が多々あります。

小説「海炭市叙景」は、短編ごとに様々な出だしになっております。


最初の一文で状況説明と、主人公を登場させるもの。

「連絡線が海峡に出かかり、山の裏側を迂回する頃、彼はひとりで甲板に行った。」(2話目「青い空の下の海」)

「最初から客は博ひとりだった。」(8話目「裸足」)


次の展開につなげるもの。

「毎晩、あんな調子では本当に困ってしまうわ。」(5話目「一滴のあこがれ」)

「あのね、と恵子はいいかけた。」(17話目「この日曜日」)


そして恐ろしく短い文章で、最後まで太いラインを感じさせるもの。

「待った。」(1話目「まだ若い廃墟」)


計算というより、ひらめきのなせる業なのでしょうか。
このあとの「あと3分。兄さん、それしか待たないわよ。」という台詞がとても印象に残ったのは、きっと出だしのこの一文のせいかと。

「ネコを抱いた婆さん」もとっても短い一文でスタートします。
ポイントとなる短編は、何か特別な思いが込められているのかも。

・・・なんて素人の深読みしすぎですね、きっと。





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2009年08月05日

函館の夏

小説「海炭市叙景」の18番目の短編『しずかな若者』の舞台は、7月下旬の海炭市です。
ここで作品は未完となりましたが、続いていればその後の季節が描かれていたはず。

8月の海炭市はどんなだったろうか。

「きみの鳥はうたえる」「移動動物園」など、夏の出来事を描いた作品は数多くあります。
「そこのみにて光り輝く」は、おそらく函館をイメージしているのではないかと。
湿度の高い夏ではなく、道南の気候を切り取っているように感じます。

昨日あたりから青空が広がり、やっと夏を実感。
「そこのみにて?」のような暑さの中、海に頭からもぐってみたいものです。

北海道出身の熊切監督だからこそ、セミがうるさいくらい鳴いてたり、もやっとぼーっとしてしまう表情だったりという定番の暑さではない、海炭市の夏をフィルムに収めてくれると期待がふくらんでおります。

函館の夏がやっとはじまり、色々な思いがかけめぐりはじめております。



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2009年08月01日

傷つけられたのは、傷つけたから

「海炭市叙景」には18のストーリーが存在します。
季節ごとに9つのストーリー。
本来ならば四季それぞれ9つのストーリーで36の短編からなる物語の予定でした。

佐藤泰志の死で物語は永遠に中断されたまま。
でも僕が受け取った18のストーリーからなる物語は、不思議と途中半端な印象を受けません。

そう思って読んでいるからか、そうなる予感で書いたのか。

映画となる「海炭市叙景」は、その中からいくつかのストーリーをピックアップする形です。
登場人物は、それぞれの重たい人生を歩いています。
明日には良いことがあると信じているのです。
でも、自分や、自分の大事な人や物が傷つけられる事があるのです。

自力ではどうしようもない環境の変化だったり。
世の中の変化に対峙した結果だったり。
そして自分が傷つけたことが理由だったり。

どのシチュエーションも自分の歩いてきた道で思い当たってしまうのです。
それが切なくもあり、明日の光へのヒントだったり。

気付かずに人を傷つけているという事に、気付いてないであろう自分にがっかりしながら。
明日は気付けると思ってみたくなるのです。


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