函館の映画祭映画館でのひととき

2009年11月08日

「まだ若い廃墟」という物語

「海炭市叙景」は18編からなるショートストーリーの集まりです。
架空の街である海炭市で暮らす人々が、1話ごとに主人公としてピックアップされています。

春・夏・秋・冬。
9編づつ36話からなるはずのストーリーは、佐藤泰志が亡くなったため半分だけしか明らかにされていません。
どちらにせよ読了まで息もつかせない展開の1話目「まだ若い廃墟」は、この作品を長く人々の記憶にとどめるに充分な内容を誇っています。

大晦日の夜に初日の出を見るために、街を見渡せる山に登った少女。
しかし朝日に照らされた街はガレキのように見えてしまいます。
彼女はそこに未来を重ね合わせたのか。
何かの現実に気がついたのか。
あまりに広い風景が、別世界に見えたのか。

タイトルの「まだ」という言葉は、何を暗示しているのでしょう。

映画では、更に凝縮した世界をお見せします。
しかしそれは、廃墟という言葉がもつ絶望感だけではないのです。

読む人によって解釈が分かれるこのお話し。
兄の行動は偶然か必然か。
多くの謎を内包するからこそ、ずっと心のどこかに住み続ける物語になりえたのだと思っています。



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